「日本再生にワーク・ライフ・バランスの視点を」
国民的課題となっているワーク・ライフ・バランスの実現のためには、働き方と暮ら し方のそれぞれについて、社会全体としてのバランスのありようも含めて、見直す必要 がある。しかし、働き方の面でいえば、労働時間や作業管理の問題だけでは解決できな い課題も少なくない。例えば、発注や受注など企業間の関係によって制約されることや、 24時間営業のように生活の便利さという形で消費者のニーズによって決められてし まうことが多いのが現状である。
そこで、「ワーク・ライフ・バランスと質の高い社会を考える会」(座長 清家篤 慶応 義塾大学教授・慶応義塾長)では、こうした諸問題について社会全体の生産性という観 点も含め、今後の課題とその解決に向けた方策を検討してきたところであり、今般、そ の結果を次のような提言としてとりまとめた。
1.今回の大震災は、ボランティア活動などを通じた人々の「絆」、電力不足対応による弾 力的な勤務スタイルなどの導入、「節電生活」など便利さや効率性一辺倒でないライフ スタイルなどを経験することによって、多くの人にとってワーク・ライフ・バランスの 意義と重要性を再考する機会ともなったこと。
2.社会全体としてワーク・ライフ・バランスを実現していく上で次のような視点が必要
○納期の制約や顧客のニーズなどによって左右、あるいは職場内でも他の人の休業時のフォローが必要など関係者相互の利害が衝突。また、処遇などで正社員と非正社員との格差が存在。
○サービス化が進展し、便利さや迅速性などニーズが高度化・多様化する中で、その提供する側は長時間労働が増えるなど働き方にも影響。特に、サービスは「奉仕」という一般的な受け止めが強い中では、サービス競争の過熱化によってこうした傾向に拍車。
○親の長時間労働や24時間営業などの傾向は、子どもの生活や健康への影響、家庭や地域の教育力の低下にも関連。消費者のニーズに即応して便利さや効率性を追求した結果、地球環境への負荷という弊害も発生。これら地域課題を解決する活動参加を現役世代に促す必要。
3.このため、「社会全体として最適なワーク・ライフ・バランスの姿を」目指すため、以 下のような提案のもとに、関係者間での合意形成を進める必要。
【提案1】自分の都合に応じて働く時間を決めることを「働く人の権利」と考え、自律的な勤務時間管理や仕事のあり方を検討し、労働法など関係法制や社会の諸制度を見直す。
【提案2】時間は財産でありサービスも無償ではないという意識を社会に広め、適切なコスト負担や環境負荷へのチェックなどにより、行き過ぎたサービスによる労力提供を見直す。
【提案3】家庭と地域における教育力向上や地域の諸課題解決のための活動への参加を促すなど社会の持続的発展の手段として、時間的ゆとりと活動機会を生み出す。
4.ワーク・ライフ・バランスの実現は、社会の「質」を高めることであると考え、様々な レベルでの合意形成を促進する必要。このことは、デフレ克服や地域活性化など社会の 「元気」を取り戻す取り組みとなること。
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(発表日:2011年12月26日)