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ワークライフバランス・シンポジウム 開催レポートA
「病院経営とワークライフバランス」

     吉村浩美 社会福祉法人聖隷福祉事業団 執行役員聖隷三方原病院 総看護部長(局長)



吉村氏


 2014年に、医療界初の「ワークライフバランス大賞」大賞を受賞されました取り組みについて、その内容を紹介いたします。
(2015年12月15日に行われた「ワークライフバランス・シンポジウム」での講演より)
 受賞のポイントはこちらをご覧ください。



雇用の質向上のための4つの領域

 2015年の改正医療法の中で、医療勤務環境の改善努力が義務づけられました。その中の「改善マネジメントシステム導入の手引き」に、雇用の質向上のための4つの領域が示されています。@働き方・休み方改善、A職員の健康支援、B働きやすさ確保、C働きがいの向上です。
 @働き方・休み方改善では、夜勤交代制勤務表作成基準を改定しました。看護職は主に8時間3交代の交替制勤務です。毎月異なる勤務表が提示されるので、体の健康を合わせるのが大変だという現状があります。そこで、より健康的で働きやすく、そしてオフを楽しめるように、基準を改定しました。具体的には、勤務間隔を確保する、夜勤を連続して2回以上は設定しない、土日に連休を1回はつける等というものです。
 A健康支援をするために、長時間労働対策を行いました。まずは、月間の超過勤務を30時間以内にすることを目標に、個人やマネジメント層に働きかけました(詳細は後述)。また、最も体に負荷がかかる夜勤回数の是正も行いました。
 さらに、職業感染の予防グッズに投資をしました。看護の現場には、未知のウイルスがまだまだ存在します。例えば、静脈に刺したままでも安全な針を導入し、針の抜き差し回数を減らすだけでも大きくリスクを回避できます。コストはかかりますが、大変重要なことです。
 B働きやすさ確保に関しては、患者さんの介護をチームで受け持っている看護補助者を増員し、他職種との連携も強化しました。また、短時間勤務(1日単位の時短)もしくは短日勤務(1週間単位の出勤数調整)と夜勤回数の制限をするワークシェア制度や、月間18日を限度として夜勤のみを行う夜勤専門看護師制度を導入し、働きやすさの向上に努めてきました。
 C働きがいの向上のために、専門・認定看護師休職奨学金制度を導入し、年間に複数名がこの制度を活用しています。やりがいを持って良い仕事をすることはチーム医療の推進にも至りますので、キャリア支援をすることはとても重要です。
図表1

WLB大賞受賞後の活動

 また、「ワークライフバランス大賞」の受賞後には、「かえるプロジェクト」と「パートナーシップナーシング」という活動を行ってきました。
「かえるプロジェクト」では、「ワークライフバランスの実現に向けて、仕事のやり方をひとつ変えよう」というキャッチフレーズのもと、有給休暇や時間外勤務を正しく申請するよう徹底したり、ホームページ上にバナーを設定し様々な制度を周知したりしました。また、職員の希望から、次月の勤務表をもう少し早く提示し、次月のスケジュールを立てやすくしようという取り組みも行いました。

図表2

 「パートナーシップナーシング」という看護方式を導入し、技術伝承と業務効率を目的として、チームで24時間をつなぎながら患者さんの継続的なケアをしています。特に、2人ペアで患者さんのケアをすることによって、重症化した患者さんの安楽性を高めることや、一人が患者さんのケアをしているときに、もう一人が看護記録を電子カルテに入力することも可能になり、超過勤務時間の削減にもつながりました。


取り組みの成果

会場

 続いて、取り組みの成果を数値で比較していきます。
 まず、看護職員の勤続年数です。2008年(6.98年)から2014年(8.42年)の間におよそ1.5年長くなりましたが、もう少し長くしたいと考えています。看護実践能力は新卒1年目の力よりも、5年目、7年目、10年目の看護師のほうが品質を担保でき、患者さんの満足度も高まるからです。
 そして、各種制度の活用状況です。ばらつきはありますが、毎年100名を超える職員が活用しています。制度の評価はどれだけその制度が活用されたかに尽きると思っていますし、制度の活用によって、有子率(子どものある率)が5年間で31%から42%へ増加したことは、大変喜ばしいことです。
 超過勤務に視点を当てますと、一人当たりの超過勤務の時間は2008年(15.2時間/月)と比較して約3時間半を削減し、2014年度は月平均11.8時間まで減少しました。しかし、月に20日出勤すると仮定しても、1日あたり平均35分程度、超過勤務をしていることになります。この状況をさらに改善し、定時で終われるような職場環境を整えたいと思っています。
 2002年には17.5%だった離職率も、2008年以降は8〜9%前後で推移しています。全国平均の11%と比較しても、当院の離職率は低い水準です。そして、有休消化率も2014年度は89.9%となりました。有休消化率は、看護師の数と患者さんの数に影響されますが、離職率が下がり看護師の数が増加したことは、有休の取得促進にも貢献しました。

長時間労働対策と健康管理

 長時間労働対策では、月間の超過勤務時間を30時間以内にすることを目標にしました。月平均30時間以上の超過勤務をしている方の仕事を、どのように段取りを付けてもう少し早く帰れるようにするか、業務を少し分担せざるを得ないか、それぞれの課長が職場をマネジメントしてくれました。このとき注意しなければならないのは、決して圧力を掛けてはいけないということです。超過勤務時間を全て申請させ、実態を把握しなければマネジメントできません。
 健康という点で見れば、超過勤務時間の平均値が下がったとしても、長時間働いている方がいれば、その方に健康障害が発生します。この点に留意をしようと看護課長会で話し合いながら、いろいろなやり方をしてもらいました。本人がどのように仕事をするかを考え、「来月は日に5分でも早く帰ろう」、「こういうときはこうやってお願いしよう」、「自分はここをやり過ぎていた」という目標を設定し、一つひとつやってきました。経営視点からも、健康管理と同時に超過勤務手当の削減につなげることができます。超過勤務手当の削減分は、利便性のある設備投資によって還元していきたいと思います。

WLBの実現は経営に貢献する

図表3

 看護職は近代的な労務管理をこれまでおざなりにしてきました。夜勤ができて、しっかりと働けて、上司の命令を素直に聞く人がいい看護師だと思われてきたところもあります。また、昼間仕事をして、それから数時間帰って真夜中から朝まで仕事をする、そうした勤務形態が当たり前になっていました。
 しかし、これまでご紹介した様々な取り組みを通じて、ワークライフバランスの実現は経営に貢献するという実感を持っています。特に、夜勤は看護職にとっては切り離せないものなので、健康的に働ける職場を目指す機運が高まっているいい時代が来たと思います。
 当院は、「お互い様」という組織風土をつくることに成功しました。また、キャリアアップというモチベーションの支援も活発になりました。結果として、看護師の確保と定着が図れて、安全と品質が担保されるようになったということを改めてお伝えしておきたいと思います。
 ワークライフバランスの推進と実現は、必ず企業経営に貢献するでしょう。

(文責:事務局)





【プロフィール】
吉村浩美(よしむら・ひろみ)
社会福祉法人聖隷福祉事業団 執行役員 聖隷三方原病院 総看護部長(局長)
浜松市立看護専門学校卒業。日本看護協会、看護研修学校「管理コース」卒業、浜松医科大学大学院医学系研究科修士課程卒業。聖隷浜松病院、聖隷三方原病院総看護部長を経て現職。

【社会活動】
2011〜2014年 日本看護協会「看護職のWLB推進検討ワーキンググループ」委員。2012年〜厚生労働科学特別研究事業 医療分野の「雇用の質」向上PJ委員。2014年〜日本看護管理学会評議員。2015年〜日本看護協会看護労働委員会委員。