ワーク・ライフ・バランス・コンファレンス2014
開催レポートA
〜第8回ワーク・ライフ・バランス大賞表彰式〜
2014年11月10日、「次世代のための民間運動〜ワーク・ライフ・バランス推進会議〜」と日本生産性本部は、東京都内で「ワーク・ライフ・バランス・コンファレンス2014」を開催した。
ワーク・ライフ・バランス推進会議では、2006年8月の立ち上げ以来、「働き方」と「暮らし方」双方の改革によって、「調和のとれた生活」の実現を図る運動を進めている。同コンファレンスは今年で8回目であり、ワーク・ライフ・バランス推進の社会的意義を高め、より一層の普及啓発を目指している。当日は約200名が参加し、これからのワーク・ライフ・バランス推進についての問題提起、「第8回ワーク・ライフ・バランス大賞」の表彰式、受賞した3組織代表によるパネルディスカッションで事例紹介が行われた。
開会あいさつ
冒頭、ワーク・ライフ・バランス推進会議代表幹事で実践女子大学教授の鹿嶋敬氏が挨拶に立ち、次のように述べた。「ワーク・ライフ・バランス推進会議」がスタートしたのは2006年8月で、産業界・労使・学識経験者による11名の推進委員の構成で立ち上げ、以後継続的に社会的な普及啓発活動等々の運動を展開してきた。ここにきてそのワーク・ライフ・バランスが改めて熱い注目を集めてきている。その背景の一つとして、女性活躍推進について政府が今熱心に取り組んでいることがある。女性活躍を推進する上で、職業生活と家庭生活の円滑かつ継続的な両立を可能にすることが求められている。すなわち、ポジティブ・アクションの基盤としてワーク・ライフ・バランスの必要性が強調されてきているのである。一方で同時に、ワーク・ライフ・バランスは女性活躍推進のためだけのものではないこともこの場で強調しておきたい。重要なことは、女性活躍推進が地に足のついたものであるために、特に男性を巻き込んだワーク・ライフ・バランス推進がいかに大切かということである。
今回の応募企業の特徴は、大企業にとどまらず、中小企業や地域の企業等々の応募が目立ったことだ。これは、地域や企業の中にワーク・ライフ・バランスの見方が着実に根づいてきている証であろう。同時に、高齢化の進展の中で、仕事と介護の両立という問題についても、様々な取り組みが企業の中で始まっていることを今回の応募の分析をしながら実感した。今回の受賞組織の取り組みを通じて、これからの企業のあり方や個人の働き方等の参考になることを願う。
問題提起「これからのワーク・ライフ・バランスを考える」
続いて、慶応義塾大学教授の樋口美雄氏、三越伊勢丹ホールディングス代表取締役会長執行役員の石塚邦雄氏、日本労働組合総連合会事務局長の神津里季生氏が登壇し、ワーク・ライフ・バランスを今後どのように展開していくかについて問題提起が行われた。※問題提起のレポートについてはこちらをご覧ください。
「第8回 ワーク・ライフ・バランス大賞」表彰式
「第8回ワーク・ライフ・バランス大賞」の表彰式では、日本生産性本部会長 茂木友三郎より、受賞組織(大賞1社、優秀賞5社、奨励賞1社)の代表者に表彰状と記念の楯が授与された。また、祝辞として以下のように述べた。「ワーク・ライフ・バランス推進に向けた取り組みは、育児・子育て支援から、介護との両立、地域活動への参画支援など多岐にわたってきている。一方、日本の多くの企業や組織において、時間外労働の抑制や有給休暇の取得促進が進んでおらず、いまだに切実な課題が山積している状況である。
労働力人口が減少する中、日本が持続的に経済成長していくためには、生産性の向上が不可欠であり、その実現のためにはイノベーションが重要となる。そして、生産性の高い働き方の実現やイノベーションを生み出す人材の育成のためには、ワーク・ライフ・バランスが極めて重要なファクターである。
それぞれの組織がもつ特徴をいかし、オリジナリティある
展開がなされていくことに期待したい。」
武蔵大学教授江上節子氏は講評で、「これまでワーク・ライフ・バランス(WLB)は人事労務分野の問題として捉えられていた。しかし、今日、社会から資本を集め活動を行う企業の存在は、グローバル経済の中で、財務指標だけではなく非財務指標の情報開示も求められ始めた。企業経営の質が、多元的な観点から問われる。それがサステイナブルな社会と企業の条件となる。WLBもより一層求められ、企業の高い付加価値を作るうえでの競争の戦略としてのWLB活動になっていくでしょう」と述べた。
※受賞組織と詳細の内容についてはこちらをご覧ください。
パネルディスカッション「ワーク・ライフ・バランス大賞 受賞者の成功事例に学ぶ」
表彰式に続いて「第8回ワーク・ライフ・バランス大賞」受賞者によるパネルディスカッションが行われた。登壇者は、受賞組織の中から、聖隷福祉事業団執行役員 聖隷三方原病院総看護部長吉村浩美氏、大垣共立銀行人事部人事企画課課長 松岡庸介氏、拓新産業代表取締役 藤河次宏氏の3氏。キャリアン代表の河野真理子氏のコーディネートにより進められた。拓新産業の取り組み
当社は建設機材リースの会社である。26年前に中途採用のみの採用から新卒採用に切り替えていくことになり、学生から求められる魅力ある企業づくりとはどのようにしたらよいかを考え、従業員満足を推進してきた。その中で「完全週休2日制」と「有給休暇の完全消化」の2つを中心に進めてきた。
まず完全週休2日制であるが、当社は建設現場を対象にしているので、お客様との兼ね合いや工期との関係で、土日も祝日も休むことはなかなか困難な業界である。そこで年間ローテーションを組み、全体で月に1回土曜日に交代で出勤することにした。必要最少人数が月1回土曜日に出勤することとし、土曜日に出勤した社員は、代わりにその週の水曜日を休日とすることで、顧客満足と社員の働き方とバランスを取ってきた。
次の有給休暇の完全消化については、初めは社員も疑心暗鬼であった。総務に有給休暇消化率の低い社員を確認し、私が朝礼で消化率の悪い人の名前を呼び上げた。これを3年間継続することで有給休暇の完全消化が定着してきた。
このように実行してきたが、取り組みを進めると、少人数の職場は交代要員がいないなど、いろいろな課題が出てきた。そこで、マルチタスクとして社員1人に複数の業務を行ってもらうことで交代要員の確保に努めた。交代要員の確保は有給休暇の消化だけでなく、育児休暇や介護休暇の取りやすさにも影響している。
また、残業ゼロ・休日出勤ゼロも実施している。会社の理念として徹底することで全員に浸透させている。今は社員一人一人が、時間内にどうすれば仕事をこなせるかといった業務の簡素化や改善を考えるようになってきた。お客様には、3営業日程度の余裕を持ったご連絡をいただきたいことや急な対応ができない場合があることなどを外部に対し会社全体で繰り返しお願いをしてきた。
当社ではワーク・ライフ・バランス経営が経営戦略でもある。ワーク・ライフ・バランスを経営戦略と位置付けたことが好事例につながったと思う。
大垣共立銀行の取り組み
大垣共立銀行は、お客様の満足度、お客様に愛される企業として一番を目指している。ゴールのないお客様の満足に向かって、常に努力し続ける中で、どうしたら従業員が目標に向かって頑張れるのかを考えた答えが、ワーク・ライフ・バランスの推進だった。
その中で、取り組んだのが、「女性が育児を理由に退職をしない、また、キャリアを阻害されないような仕組みづくり」である。
そのためには、女性がその時どきで大切にしたい家庭、仕事といった価値感を大事にできることが重要であると考え、正社員から勤務時間の短いパート勤務へ転換し、子育てがひと段落したら、元の資格で正社員に戻れるキャリア転換制度を創設。従来からあるコース転換制度と組み合わせ、子どもが小さい時期は、パート勤務をし、その後一般職からキャリアアップを目指し総合職に転換するなど柔軟な働き方が可能になっている。
また同時に、「時間外労働を抑制し、プライベートの時間を創出する」ため、早帰り運動の徹底等にも力を入れた。長時間労働につながりかねない午後7時半以降の時間外労働実施については、所属長から人事部へ事前報告を必要とすることで、職場の全員で早く帰ろうとする意識が定着し、係間での連携が進み、仕事の分担が見直されるなどの、業務の効率化にもつながっている。
さらに、育児休業取得者の職場復帰支援の充実を図るため、育児休業取得者を人事部所属とした。仕事と育児を両立させ、働き続けられる環境で復帰が出来るよう、人事部が一人ひとりと相談しながら復帰を支援している。また、育児休業取得者の集いを開催し情報交換の場としている他、育休だより「めばえ」では、復帰した行員の体験談や制度を紹介している。これらの取り組みによって、約10%あった定年退職以外の女性の退職率が、最近では6%弱にまで減少している。
今後もワーク・ライフ・バランスを推進しながら、企業としての競争力を高め、労働力をしっかりと確保し、勝ち残っていく企業を目指したい。
聖隷三方原病院の取り組み
看護職のワーク・ライフ・バランスの実現を阻む主な課題に次のようなことがある。1つ目は夜勤や休日を含む交代勤務であること。毎月勤務表が出てからでないと予定を立てることができない。2つ目は長時間・超過勤務が常態的であること。勤務時間はあるが、急患や緊急手術の患者の対応で勤務交代が上手にできなかったり過剰な業務をカバーしあう背景がある。3つ目に女性が多いこと。出産、育児、学童、不登校といった問題。また、体力等を考えて継続性に悩むことがある。
そこでまず、人的資源管理として労務管理の改善を行った。以前は、療養上の世話や搬送業務等の看護職でなくてもよい業務を良かれと思い多種多様に行っていた。そこで、まず病院内で職種間の役割分担を推進することで看護職でなければならない仕事に集中できるようになった。多職種連携を行いながら組織の再構築を行った。
また、「ワーク・ライフ・バランスを積極的に支援」するために、育児短時間制度を多種多様に利用してもらった。12年ほど前は、年間産休者が35人位であったが、今は年間70名の産休者がいる。そういった中で、その方々が退職せずに復帰する、短時間勤務を選択して復帰してくるという風土をつくってきた。
しかし一時期、フルタイムで働いている職員に業務が偏るという問題が起きたが、有志がプロジェクトを組み、その問題解決を図った。現在はそれを課長会として認め、病院の看護部の組織の一つとして活動している。職員参画という、良い気風、風土づくりにつながった。
一番難しかったところは、旧態依然とした昔の慣習をそのままとする考え方を組織刷新する、イノベーションすることであった。課長会で何度も話し合いをし、離職によって人が減ることによる、現場の疲弊感や組織が衰退する影響などを認識し合った。そして、育児休職者が職場に復帰し活躍することが、何よりも看護の質の担保になり、向上につながるということを浸透させていった。
また、職員個々がお互い様文化を、職場ごとの小さなコミュニティの中で体現し、理解し合ってくれたことが、今、聖隷三方原の本当の財産だと思っている。まだ現状は5合目ぐらいで、これから先たくさんの課題が出てくるかもしれないが、職員皆が頑張ったおかげで今回大賞を受賞することができた。この受賞を現場に持ち帰り、喜びを共有したい。
ワーク・ライフ・バランス推進が生産性の向上へ
コーディネーターの河野氏は、「受賞された組織の皆さんのお話から、ワーク・ライフ・バランスの取り組みは、生産性を向上させるのに非常に有効な切り口であると感じた。
一組織としてだけではなく、業種として、または職種として新しい枠組みを考えたり、新しい風土をつくったりしていくことも重要である。生産性という言葉は現場では働く個人に向けて考えられることが多いが、「開かれた個」の集まりがチーム・職場であるので、これからは組織全体での生産性に目を向け、人材の組み合わせを検討するなど、マネジメントを有効に活かしていくことが重要ではないか。」と述べた。
プログラム終了後には、推進委員、ワーク・ライフ・バランス大賞受賞者と参加者による交流会を開催し、活発なネットワークつくりが行われた。
(文責:事務局)