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ワーク・ライフ・バランス・コンファレンス 2011
開催レポート
―第5回ワーク・ライフ・バランス大賞表彰式―

写真 2011年11月22日、東京都千代田区のJA共済ビルにて、「次世代のための民間運動〜ワーク・ライフ・バランス推進会議〜」と公益財団法人日本生産性本部は「ワーク・ライフ・バランス・コンファレンス2011」を開催した。ワーク・ライフ・バランス推進会議では、2006年8月の立ち上げ以来、「働き方」と「暮らし方」双方の改革を図り、「調和のとれた生活」の実現を図る運動を進めている。同コンファレンスは今年で5回目であり、ワーク・ライフ・バランス推進の社会的意義を高め、より一層の普及啓発を目指している。当日は約180名が参加し、基調講演、「第5回ワーク・ライフ・バランス大賞」の表彰式、受賞組織によるパネルディスカッションが行われた。

 冒頭の挨拶として、ワーク・ライフ・バランス推進会議・代表幹事の鹿嶋敬氏は、「ワーク・ライフ・バランス推進会議が発足から5年が経ったが、世の中では、発足当初のような熱気が少し薄れている。ワーク・ライフ・バランスの火を消してはならない。」と述べた。

「企業経営とワーク・ライフ・バランス」

写真  続いて、昨年の「第4回ワーク・ライフ・バランス大賞」大賞受賞組織である六花亭製菓株式会社代表取締役社長の小田豊氏が、「企業経営とワーク・ライフ・バランス」と題して講演を行った。
 当社では、今年の1月以降に売り上げが下がり、3月11日の震災の影響もあって、9割ダウンした。有給休暇を100%取得しても人が余ってしまうという状況であったため、ワーキングシェアを行い、残業をゼロにすることを目標として掲げた。その結果、4月から10月までは残業がゼロになっており、この調子だと年間総労働時間が1800時間台になる予定である。また、残業ゼロを始めてから、営業利益が40%増え、今年度の売り上げは前年度と同水準に戻る予定である。
 当社では、売り上げ目標を掲げていない。売り上げよりも品質を重視。人の質がバラつくと製品もサービスもバラついてしまう。バラつきを無くすにはどうするか。当社では、年に2回クレペリン検査を行っており、ストレス耐性、心の筋力をチェックしている。代表商品であるマルセイバターサンドは、多いときで1日40万個作るが、心の筋力が弱いと妥協が出て品質が低下する。採用したときは良かったが、心の健康を失う人もいる。そのような社員には、3年間ほど農業をさせたり、人との接触の少ない部署に異動させている。心の健康は体と同じように非常に重要である。
 また、社員の持ち味を生かしたいと考えている。明るくて元気で前向きな社員だけが良いとは限らない。サッカーと同様に、フォワードばかりではいいチームはできない、デイフェンダーがいないと勝てない。青い色は青い光を、黄色い色は黄色い光を発する様に持ち味が違う。商品の差別化もあるが、人の差別化もある。中小企業は、大企業の様にいい人材が集まりにくいので、「歩」で勝負することが必要である。こうした社員が集まり、有給休暇取得100%、残業ゼロの結果に結びついている。
 企業経営として、減価償却という考えがあるが、時間とともに価値が上がるものもあるのではないか。以前は土地がそうだったが、財務諸表に現れない内部留保をどのように持つか考えなければならない。単年度の会計だけでなく、「森の時計」のように、長期的な尺度をもつことがこれからもっと大切になるのではないか。当社では美術館を作ったが、これはリスクヘッジ。経営はお金の使い方。内部留保を持つには勇気がいる。時間とともに価値が増すものを考えながら、それを抱えて行く。それが企業としての体力だと思う。

「第5回ワーク・ライフ・バランス大賞」表彰式

 続いて、「第5回ワーク・ライフ・バランス大賞」の表彰式が行われ、日本生産性本部会長の牛尾治朗より、表彰状と盾が授与された。
 2007年からスタートした「ワーク・ライフ・バランス大賞」であるが、今年度は昨年度と同様、「@幅広い観点に立ち、総合的かつ先進的な取組み」、「A特定のテーマについて先進的ないし、独自性ある取組み」、「B多くの困難を抱える業種にあって、課題解決に積極的な取組み」、さらに、「C社会的に大きな影響を及ぼす普及支援への取組み」という4つの観点から、優れた成果をあげているものを選考の対象とした。そうした中で、企業や労働組合、病院、自治体などの応募の中から、実際に組織や職場に変化が生じた取り組み、かつ、特定なテーマにおける先進的な取り組みや、困難な業界での積極的な取り組みなどを評価してきた。
 今年は、ワーク・ライフ・バランス大賞は日本アイ・ビー・エム株式会社が受賞した。優秀賞には、社会福祉法人愛誠会、花王株式会社、株式会社資生堂、社会福祉法人恩賜財団済生会支部福井県済生会病院、三菱化学株式会社の5つの組織が選ばれ、奨励賞は、株式会社エス・アイが受賞した。

「第5回ワーク・ライフ・バランス大賞受賞者の成功事例に学ぶ」

 続いて行われたパネルディスカッションでは、ワーク・ライフ・バランス推進会議・推進委員のパク・スックチャ氏のコーディネートのもと、今回の受賞組織の中から、日本アイ・ビー・エム株式会社人事・ダイバーシティ&人事広報部長の梅田恵氏、花王株式会社人材開発部門統括部長の井上直樹氏、株式会社資生堂人事部ダイバーシティ推進グループ次長の真下隆幸氏、三菱化学株式会社人事部グループマネージャーの後藤啓氏の4名が登壇し、各社のワーク・ライフ・バランスの取り組みについて紹介があった。

写真  梅田氏は、「当社では、女性の活躍支援について、成果主義の徹底と女性社員のキャリアに対する意識改革を中心に1998年から取り組んできた。在宅勤務や短時間勤務も早くから導入し、育児などで働く時間や場所の制約があっても、本人のやる気に応じて目一杯働ける環境を整えてきた。しかし、数年前に若い女性社員から、当社は女性にとって5Kの職場(きつい、帰れない、結婚できない、子どもが産めない、化粧を直すヒマがない)だと言われてしまった。個人生活を犠牲にして働く女性を作り出すことが当社のダイバーシティの本来の目的ではない。当社は比較的早くから仕事と個人生活の両立を支援する制度を整えてきたが、心豊かに余裕を持って社員にイキイキと活躍してもらうために、旧来の制度をより現在の働く環境の実態にあった制度に再編する工夫を行っている。月単位で働く時間の総量を調整できるフレックス短時間勤務制度を導入したり、週4日以上の完全在宅勤務を可能とするホームオフィス制度を導入した。当社では、女性の課題は女性自身が課題の把握と解決策の検討をカウンセル活動として行い、会社に提言してもらい、それが実行可能ならどんどん採用している」と述べた。また、在宅勤務制度については、「導入当初は、社員から、どうやって評価されるのか不安である、在宅勤務を利用すると評価が下がるのではないか、との声があり、なかなか進まなかった。成果主義を徹底したこと、また、経費削減策の一環として、電話会議の積極的な活用を全社的に推進したことなども、在宅勤務のしやすさにつながった。電話会議が日常的になると、家から参加していても職場から参加していても条件は同じであるし、会議運営の効率も良くなる。電話会議に対するリテラシーと在宅勤務の普及は連動している」と述べた。

 井上氏は、「当社のワーク・ライフ・バランス推進には、大きく分けて3つのポイントがある。ひとつ目は長期間にわたって絶え間なく継続的に取り組んだことである。かねてから女性の採用は積極的に行っており、1989年に女性の育成を専門的に考える組織を人事部門に設立し、仕事と育児を両立できるような環境をつくるため、短時間勤務制度を導入した。1990年代から出産後に復帰する風土が少しずつ定着し、2000年から、当時の社長を委員長にして全社横断的な委員会(イコール・パートナーシップ推進委員会)を作った。その後、社員の行動規範の中に、多様性と人権を尊重し、個の力を最大限活かすことが明示された。すぐに目に見える形で結果を残すのは難しいが、時間をかけて企業の風土を変えていく、文化を定着させることが大事である。
 2つ目は、仕事と介護の両立支援に向けた取り組みを早くやらなければならないという意識で取り組んでいることである。少子高齢化の問題について自社でシミュレーションをした結果、介護責任を負う社員の比率が、2008年の時点では8.3%だが、2023年には18.5%になる予想になった。そうなってから手を打つのでは遅くなる。介護は突然訪れるので、啓発活動を通じて当事者の主体的な行動を促進していくこと、また、周りに介護の相談をしやすい風土をつくっていくことに取り組んでいる。介護を身近な問題として捉えてもらいたい。
 3つ目は男性の育児参加をさらに促進していくということである。男性社員も積極的に育児に関わってほしいとの認識から、2006年の制度改訂の際に、育児休職の最初5日間を有給とした。それを徹底的に啓発するため、子どもの産まれた男性社員や、上司にもPRした結果、毎年約100名近い社員が利用している。まずは有給の5日間を浸透させ、それがひいては長期休職、育児参画につながると考えている。これからも、時間をかけてでもいいから取り組みを進めていきたい。」と述べた。

 真下氏は、「現在につながる活動は90年代初頭から取り組んできたが、女性活躍支援の第一歩である『働きやすい会社』から、『働きがいのある会社』へステップアップするため、任用リーダー30%という数値目標を設定し、人材の登用、育成に向けた意識啓発に取り組んでいる。これまでは、意志決定者などは男性であり、女性はサポート役という風潮だった。女性のチャレンジ意欲を掻き立てるためにキャリアサポートフォーラムを開催し、トップによる女性活躍支援のメッセージ発信や、女性のロールモデルから体験談を語ってもらっている。各部署の人事窓口管理職も同席させ、同じ情報を共有している。そうすることで、女性に一段高い課題を与えて育成するというマネジメントができるようになった。
 こうした諸施策を講じた結果、本社勤務で出産を機に退職する女性がゼロになった。その一方で、店頭の美容部員はなかなか時短を取得できなかったが、2006年に導入したカンガルースタッフ制度で大きく改善した。カンガルースタッフは現在約1400名おり、育児短時間勤務の美容部員のサポートを行っている。ゆくゆくはコア人材になるかもしれない社員の退職を回避できており、長い目で見れば戦力の維持につながっている。
 こうした諸施策との両輪で必要なのが働き方の見直しである。総労働時間の削減に取り組んでおり、オフィスの20時消灯や定時退社デーの実施で、残業時間が20%ほど削減できた。こうした取り組みは、『魅力ある職場づくり計画書』として、各部門長や事業所責任者が具体的なアクションプランを策定し、トップに報告している。こうしたトップダウンの仕組みが女性活躍推進にもつながっている」と述べた。

 後藤氏は、「今年策定した中期経営計画の中で、WLBに対する項目を設定し、労働時間の短縮、女性活躍の推進に取り組み始めた。当社の独自の取り組みとして、ひとつ目は、工場での勤務形態を4班3交替から5班3交替に変えたことである。4班3交替を行った後に日勤を行っており、その期間に多く休んでいる。深夜に働く機会が減り、勤務負担も大幅に減る。副次的な効果として、60歳以降の高齢者や女性も勤務しやすくなり、また、管理職やスタッフと接する機会が増え、才能や意欲のある人は、キャリアの開発にもつながる。
 2つ目は、ライフサポート休暇である。有給休暇の取得促進のために、有休を2日連続で取得したら、1日プラスして3連休にできるという制度である。毎年1回付与しており、連続休暇に対する意識がかなり出てきた。
 3つ目は、女性活躍推進についての取り組みである。事務系の女性が転勤を理由で辞めてしまうことが続いていたので、転勤一時見合わせ制度、勤務地自己申告制度、海外転勤同行休職制度の3つの制度を導入した。将来に対する従業員の不安に応えるために、それまで運用で行っていたものをあえて制度化したことに意味がある」と述べた。
 また、女性活躍推進について、「制度を整備するだけでなく、女性社員が自立してもらうこと、また、労働時間を短くし、定時にみんなが帰れる会社にすることが大切である」と述べた。

 プログラム終了後には、推進委員、ワーク・ライフ・バランス大賞受賞者、及び参加者による交流会が開かれ、積極的なネットワーク交流が図られた。

(『労使の焦点』2011年12月号より/文責:事務局)