女性活躍推進と組織の生産性向上 〜女性経営者の視点から〜
NTTコミュニケーションズ 常勤監査役
小林 洋子氏
2014年6月26日に行われた日本生産性本部・会員月例研究会での小林洋子氏の講演内容をご紹介します。
「経営者の視点から」と副題がついていますが、先日まで子会社で社長をしていました。何とか利益を出さなくては社員やスタッフとその家族の生活を支えられないと思うと、夜中に「わっ」といって起きたことが何度もあります。経営は戦のようなものですから、男性、女性と言っているヒマなどありません。優秀な人材は誰でも使います。これが経営者としての本音だと思います。
女性活躍推進のためには、まず皆さんが「女性にはこの仕事は無理」、という先入観をすべて捨ててみることが大切と思います。たとえば法人営業。私が支店の営業部長になった時のことですが、当時その支店は東京エリア28支店中27位でした。しかしそこには女性の「遊休資産」がたくさんいたので、それまで男性中心だった法人営業についても女性をアサインし、大口顧客を担当してもらったのです。女性はマス営業、男性は法人営業というのは全くの先入観でした。2年後に私たちの支店は3位に駆け上がったのですが、その時の法人営業の成績上位は女性が占めていました。
女性部下たちが「できない理由」を一つずつ撃破してくれた
2002年にはOCNのプロダクトオーナー(責任者)となりましたが、その頃はインターネットプロバイダの熾烈な競争の真っただ中で、スピードが勝負を決める時代でした。例えばライバル社が「大手プロバイダ最安値」というキャンペーンを大々的に始めたら、当社は1週間後に「最安値」よりさらに10円値下げして対抗するのです。そんな短期間で料金体系を変更することなど普通はできません。男性部下たちは「無理です。先例もないしできません」と言うのですが、それではキャンペーンは終わってしまいます。それを実現してくれたのが女性課長とその部下たちでした。彼女たちが「できない理由」を一つずつ撃破してくれたのです。NTTコミュニケーションズで役員をしていたときも法人営業のお客さまを強力にグリップしていたのは女性でしたし、先日まで代表取締役をしていたNTTコム チェオが1000人の営業部隊を持っていたとき、売上トップで表彰されるのはいつも女性でした。社長や上司が心の底から期待して、やってみなさいよ!と声をかければ男性でも女性でも同じようにすごく頑張ると思います。特に、女性はそう言われたことのない人が多いのでさらに心に響くのではないでしょうか。それで、よしやろうという気持ちになってもらえたのではないかと思っています。
OECDの昨年の調査によると、管理職における女性の割合は、34カ国の中で日本は最下位です。また、女性は男性と比べていわゆる非正規雇用が多い。私の入社当時は、多くの企業ではコピー取りなどの単純作業は女性の仕事でした。均等法の世の中になってからは女性にだけ単純作業を押し付けられることはなくなったと言われますが、そういったキャリアアップの可能性のない仕事は今は非正規雇用の社員に任せていて、そしてその担い手は、圧倒的に女性が多い。結局、構造的には、全く変わっていないということです。
ところで、これまで「以心伝心」や「阿吽(あうん)の呼吸」で仕事をしてくれる男性を使い慣れてきた経営者にとって、本心では「どう接したら良いかわからない」女性を使いたくなかったという時代は、ついこの間まであったと思います。しかし、2年前に経済同友会が、「'意思決定ボード'のダイバーシティに向けた経営者の行動宣言」を発表しました。これは日本の競争力を高めるためには、女性にもっと活躍してもらうしかないのだということを自覚した経営者たちが、具体的に何をしたら良いのかということをステイクホルダー別にまとめた行動宣言です。財界がついに本気になったということの証だと思います。
企業における女性活躍推進の課題
企業における女性活躍推進の課題として、まず、育児休職取得後の職場復帰がスムースにできないということがあります。意外なことに辞めていく人は、仕事が大変よくできる人に多いのです。それからよく聞く話なのですが、男性管理職が「女性を対等の戦力と認識して仕事をした経験が浅いので、どのように活用したらよいか分からない」と言うこと。経営者の目から見ると「何を甘いことを!」と一喝したくなります。これは他のテーマではありえないことです。例えば「新サービスを立ち上げようと思うけど、今までやったことがないから何をしたらよいか分からない」とは言えませんよね。
飲み会の席などでは男性管理職からさまざまな本音を聞かされます。「そもそも女性は組織に向かない」「女性を使うと職場の生産性が低下する」「この業務が女性にできるはずがない」など。これは思い込みです。それによって、女性にリーダーシップ育成の機会が与えられないこと、チャレンジングな仕事を任されないこと、それらこそが問題であり、悪循環となります。
それから、これも大きな課題なのですが、業務プロセスに暗黙知の領域が多く、長時間会社いる人を評価してしまう傾向があるということ。これは女性活躍推進のためだけでなく、グローバル化する企業にとって超えなければいけない壁です。同じ言語を話す女性にすら通じない「阿吽の呼吸」は、言語もカルチャーも異なる外国籍の相手に通用するわけがありませんから、業務プロセスも指示も評価も不透明な日本企業に嫌気がさして、優秀な外国籍社員は流出してしまいます。
育児中の女性への過剰な「配慮」による支援や配属替えが、スキルや経験の差となって女性のキャリア形成を阻害しているということも多くの企業の課題です。「私はマミートラックを走ることを会社に求められているのね」と解釈したら、その女性は本来発揮できる力をもはや発揮しなくなってしまうのです。
企業が行うべきこと
企業が行うべきことは先ほどの課題の裏返しです。まずは、育児期の社員に対して「仕事を免除する」のではなく、「仕事の継続を支援する」というやり方に変えていく。キャリアブレイクや「免除」による能力の低下を避けるためです。在宅勤務などさまざまな継続支援の方法があります。次に、女性の登用・活用を中間管理職の評価基準に加え、意識改革を行うことです。いかに女性部下の能力を引き出し、活用したかということが評価基準になると、管理職は「わからない」とは言っていられなくなります。
3つ目は、選抜型リーダーシップ育成の機会には、男性と女性を同比率で選んでほしいということです。企業によっては、意識的にある期間だけ女性を多く選ぶという選択もあると思います。
4つ目に、女性に務まるわけがないという思い込みを避けるため、徹底的な実力主義をやっていただきたい。性別にかかわらず一定の能力が認められれば、重要な職務、職責を与えるという考え方に変えることです。
5つ目は、評価の可視化を進め、ダラダラと長く会社に居る人が短時間でアウトプットを出した人よりも評価されるという不透明さを排することです。それがワーク・ライフ・マネジメントを可能にする働き方にもつながります。
6つ目は、男性の育児休暇取得率を向上させること。夏季休暇の替りに形だけ取得するのではなく、短くても1カ月ぐらいは取得するように働き掛けてほしいと思います。育児を経験した男性は、管理職になったときに、育児中の部下が本当に望む支援とは何なのかが理解できるはずです。
そもそも経営者は、企業を発展させるために、使える資産は何でも使いたい。特に人材は一番重要ですから、性別や国籍なんてことは言っていられません。これが基本的にダイバーシティの思想なのです。グローバル競争は業種や業態を問わず、否応なしに押し寄せてきます。FTA、TPPを考えてみれば、グローバルと無関係な企業などもはやありえません。そのようなグローバル化の中で勝ち抜くためにはダイバーシティへの取り組みが必須です。ダイバーシティには、性別、国籍、障害の有無、年齢などいろいろありますが、性別が一番身近なダイバーシティです。
女性活躍の8つのメリット
さて、女性活躍には8つのメリットがあると考えています。1つ目は、女性をキャリアアップの対象とすることで、「優秀な人材」の母集団が増加すること。一つの池に100匹いる金魚の中で一割がとても強く元気だとしますと、池が一つなら元気な金魚は10匹ですが、もう一つ池があれば2倍の元気な金魚が手に入る。これは単純明快な話です。2つ目に、私の経験から申し上げますと、作業効率や生産性は男性だけ女性だけよりも混合チームのほうが上がります。NASAの実験でも、宇宙飛行士のグループ作業において、男女混合チームのほうが生産性が高かったという検証結果があります。
3つ目は、企業の活力と新しいアイデアを女性は確実にもたらしている。企業改革において組織を活性化させるのは女性人材であることが多いです。
4つ目、海外のCEOやその事業の責任者になるカウンターパートに女性が年々増えています。彼女たちに対するハードネゴシエーターとしての役割を女性に期待できます。
5つ目は、女性は共感力が高いので、お客さまの問題を共有して顧客を強くつかめるということ。私は男性も女性も同じだと思っていますが、女脳、男脳というのはあるようです。女脳の持ち主は瞬時にいろいろなものと共感でき、適応能力が高いようです。
6つ目は、先ほどから強調していますが、女性が働きやすい職場は若者・外国人など、多様で変革力のある人材を引き寄せることができるということです。
7番目はIRに有利だということ。今年、有価証券報告書に女性役員数を明記させる方向で進んでいます。企業は横並びで比較されることになります。
8番目、政府は公共事業の入札などで女性活躍が進んでいる企業を優遇する方針です。これは企業にとって死活問題ですから、必死にならざるを得ない時代がとうとうやってきたというわけです。
肩書きは会社が判断して保証したものだから自信を持って
では、女性にはどんな悩みがあるのでしょうか。ある人は、「管理職になっていつも忙しい。部下の育成、社内調整、重要な判断もしなくてはならない」と言っています。女性は一般的に何事も抱え込む傾向があります。そういう人には、「部下に任せろ。自分ひとりで抱え込んでは駄目」と伝えます。部下にビジョンを明確に示して、任せて、褒める。最後の「褒める」が一番大事なのですが。心の底から褒めると、どんな部下でも今まで以上の力を発揮してくれます。またある人は、「私は指導力に欠けているし、リーダーシップも弱い」と悩みます。昇進を勧めると多くの女性はそう言うのです。そんなときには、「余計なお世話である。それを判断するのはあなたの権限ではない」とハッキリ言います。「それは組織がきちんとしたデータに基づき、実際の成果や人となりを見て他とも慎重に比べて判断した。人事部や上司の権限で決めたものだから、あなた自身は判断する立場にない」と身もふたもない言い方をします。すると「私でいいのだ」と安心して納得する人が多いのです。現在の肩書は会社が判断して保証したもの、だからもっと自信を持ってほしいのです。
また、「仕事とプライベートの両立が困難だ」という人もいます。家庭と仕事をどう両立しますかというのは、どこに行っても必ず出る質問ですが、家事でも仕事でも100点取ろうなんて思わないで、上手にまわりの人に頼ってください。
それから、「男性上司や男性の部下とうまくやれない」という人もいます。「自分だけ蚊帳の外に置かれているような気がする、私に情報が入らない、何か阻害されているんですよね。だから男社会って嫌なんです」と。そう言う女性には、「嫌なのは、あなたなのかもしれない」といさめます。男社会というものがあるのであれば、まずそこのルールを理解するのが先決なのではないか。例えば自分はラグビーが好きでも、みんなはサッカーをやっていて、一緒にプレイしたいのであれば、まずサッカーのルールを理解しましょうということです。男社会のルールとは何か、まず働く女性は、自立的にキャリア形成を行う覚悟を持つことが前提になります。その上で、組織人としての基本を守ること。例えば、仕事はもちろん、レクリエーション、飲み会を含めた団体行動をいとわないということ。女性を使いたくない理由に、団体行動をしないのでチームの一体感が阻害される、ということをあげる管理職がいます。参加できるときには頑張って参加してほしいのです。
チャンスが来たら迷わずつかむ
最後に、チャンスが来たら迷わずつかむということが、とても大切です。その人が謙譲の美徳のつもりで辞退したことが、実は後に続く女性たちのチャンスをつぶしているのだという現実を理解してほしい。ですから、返事はいつでも「はい、喜んで!」です。やれる自信がなくても、苦しくても、「はい!」と言うことによって、チャンスはやって来るのです。子育て3年、仕事40年、女の一生100年といいます。大変な子育ての時期ですが、このたった何年かを乗り越えたら、その後楽しい仕事が40年待っており、仕事を通じて大きく成長した「素敵な自分」の、トータル100年の輝く人生が待っています。 (文責事務局)
【プロフィール】
小林 洋子(こばやし ようこ) NTTコミュニケーションズ 常勤監査役
1978年早大法学部卒業、電電公社入社。サントリー出向を経て1985年民営化時にはCIを担当し現在のNTTのロゴマーク作成。1999年分割に伴いNTTコミュニケーションズへ。OCNの責任者としてOCNを会員数No.1に。2008年NTTグループ初の女性取締役として法人事業本部チャネル営業本部長就任。2008年日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2009」の一人に選ばれる。2010年NTTコムチェオ代表取締役社長。2014年6月より現職。経済同友会幹事。ワーキングウーマン・パワーアップ会議 推進委員。